”ピック&ロール”が上達する方法を棟方公寿氏が語る
”ピック&ロール”の習熟度の目安は、ボールマンが急いでいるのか、いないのかにある
”ピック&ロール”を武器に39歳までトヨタ自動車(現アルバルク東京)などのトップリーグでプレーした棟方公寿氏(男子のトヨタ自動車、女子の羽田ヴィッキーズなどでヘッドコーチを歴任)。ピック&ロールはカテゴリーや性別を問わず行われている2メンゲームであり、昨今のバスケットボールではなくてはならないスキルの一つだが、本来の目的やしっかりとしたスキルを持たないままプレーしている場合が多く見られる。そこで、棟方氏にピック&ロールにおけるボールマンが上達するためのポイントなどを聞いた。
――ピック&ロールが上手なプレーヤーと下手なプレーヤーの違いは、どういった部分にあると思いますか?
「まず、ボールマンがプレーを急いでいないかどうかです。もちろん、スピードは必要ですが、ボールスクリーンを使うときに急いでいるか、急いでいないか、この違いは大きいと思います。しっかりとスクリーンを使おうとしているかどうか。プレーヤーは『スピードを出せ』と言われると、どうしても急いでしまう傾向がありますね」
――それは、ダウンスクリーンを例に挙げた場合、速くカットすることばかりが優先され、スクリーンがセットされていないタイミングで動いてしまうようなことを似ていますね。
「そうですね、それは同じです。スクリーンを使うという部分では一緒です。ピック&ロールの場合では、セットされる前にドリブルを始めてしまいます。これが良くない理由としては、スクリナーがファウルトラブル(オフェンスファウル=イリーガルスクリーン)になるという危険性があるからです。こういうケースはものすごく多いです。だから、急がないというのが最初のポイントになります」
――ボールマンはピック&ロールで、どのような目的意識を持つことが重要でしょうか?
「そもそもピック&ロールはパスをすることが第一の目的ではありません。最もカン違いしてはいけないのが、『自分がシュートを狙う』『自分がアタックしてレイアップに持ち込む』ということを最初の目的にすることです」
――自分が攻撃するために、チームメイトのスクリーンをもらっているからですね?
「そうです。自分が攻撃をするためのスクリーンだからです。これは先ほどのオフボールでのダウンスクリーンでも同じことが言えます。自分がシュートをするめのスクリーンという感覚は忘れてはダメですね。
ピック&ロールのボールマンがパスを先に考えていると、どうしてもスピードが遅くなってしまいます。その部分でプレーヤーのスピードが落ちる場合、コーチはプレーヤーがパスを考えているということが分かると思います」
――ピック&ロールが上手なプレーヤーはどのようなプレーが特徴的ですか?
「フリースローライン辺りでのシュートが上手です。NBAのクリス・ポール(フェニックス・サンズ)やカイリー・アービング(ブルックリン・ネッツ)などを見るとよく分かります。シュートをしにいけば当然、リングを見ているので、パスができるプレーヤーを見付けることも難しくないのです」
――スクリーンを使うときだけでなく、スクリナーへのパスを急ぐプレーもよく見ます。ドリブル1つ程度ですぐパス…というような。
「プレーの順番だと思います。まず、スピードを付けて一瞬で2mぐらいの遠い位置を狙うところからスタートしたいですね。全てを一緒にやろうとしているのと、パスをする目的でドリブルをすれば、早いタイミングでポケットパスを出したくもなります(笑)。パスを出すにしてもダイブしたプレーヤーとのスペースが必要になってくるのです」
――とにかく『自分のシュートを狙う』という意識が重要なのですね?
「自分がシュートを狙いにいくことで、スクリーンもしっかり使えるようになるのではないかと思っています。スクリナーも同じです。すぐにスリップしたり、ダイブしたり…ボールマンが得点することがピック&ロールの大前提なのです。
それを繰り返し繰り返し練習し、シュートが入るようになってから次のステップへと進んでいく必要があるのです」
――確かにディフェンスにとって、フリースローライン近辺でシュートを次々に決められることは、嫌なプレーです。
「一番嫌なプレーだと思いますね。ディフェンスに出れば抜かれますし、出なければシュートを決められてしまうのですから。ディフェンス側のコーチの立場で考えれば、そのようなプレーが嫌だからヘッジしたり、さまざまなことを仕掛けたり…それがないボールマンにディフェンスはリスクを負う必要はないのです。シュートを狙わなかったり、確率が低かったりすれば、ボールマンのディフェンスもアンダーで十分です。だから、シュートすること、入れることです。それが恐いからこそ、ディフェンスは次なる手を考えてくるようになると思います」
――例えば、Bリーグの富樫勇樹(千葉ジェッツ)選手はピック&ロールが上手だと思いますか?
「とても上手だと思います。富樫選手はシュートに行ってますし、隙があればリングにもアタックします。そして、ディフェンスのヘルプが来ればパスを捌きます。これは富樫選手が自分で生きようと、得点しようと思っているからこそのプレーだと感じています」
――ここまでの話から考えて、ピック&ロールを成功させるにはドリブルのテクニックではなく、シュート力ということでしょうか?
「そこにはドリブルのスキルは特に必要ありません。自分のディフェンスとまずは1対1をするのですが、そこはドリブルで抜いていくのではなく、スクリーンで抜いていくのです。だからこそ、シュートを決めなければほかのことは何も生きないと思っています」
――そこから次のステップに入っていくのですね?
「自分のディフェンスをやっつけたら、次はどのディフェンスとの勝負(1対1)になるのか。スクリナーのディフェンスがどのようなことをしてきているのかを予測することも重要になってきます。予測をしていれば驚くこともなく、ターンオーバーすることも防ぐことができるのです。ここでも急ぐことなくプレーすることが大切になります」