”ピック&ロール”が上達する方法を棟方公寿氏が語る
シュートやリングへアタックする気がない中途半端なピック&ロールなら、やらない方がマシ
――スクリナーのディフェンスと対するとき、そこにスキルは必要になってきますか?
「簡単なスキルは必要です。姿勢を低くしてボールを守り、強いドリブル、ディフェンスとコンタクトしても大丈夫でボールをなくさないというスキルです。その場で何度もレッグスルーしたり、左右にチェンジしたりするようなドリブルは不要ですし、時間の無駄(笑)。
それにドリブルをしている最中はボールが手から一瞬離れているので、良いタイミングでパスをすることができません。日頃から必要のないものばかりを練習していても、実戦で使えるようにはならないのです」
――中高生がピック&ロールをする際のテーマは、意外にシンプルなところにあるのかもしれませんね。
「シンプルで良いと思います。ディフェンスに対して複雑なスキルは必要ないのです。まずは自分が得点することを考えてほしいですね。あとはビッグマンのディフェンスを怖がらないことです」
――ちなみに、ドリブルを始めた際に注意しなければならないことは何ですか?
「シュートやパスをできないとき、絶対にドリブルを止めてはいけません。それは自分が現役時代にずっと心掛けていたことでもありますし、ずっと指導してきたことでもあります。もちろん、パスをしようとしてドリブルをやめてパスができない場合はありますが、ディフェンスを怖がって止めた場合とは違います。怖がってドリブルしているボールをキャッチしてしまうのは避けたいですね。この部分は指導者に必ず教えてほしい部分です」
――中高生の指導者たちが、ピック&ロールというものを複雑に教え過ぎたり、考えたりしているように見えますが、その辺りはどう見ていますか?
「まずボールマンが得点を狙うことが分かっているという前提で、そこから次々とディフェンスに対応する話になっていくのです。しかし、実際は分かっていないと思います。プレーヤーたちは『ピック&ロールはパスをするためにやる』という感覚になってしまっているように感じますね。ピック&ロールはボールマンのアタックで得点されることがディフェンスにとっては脅威なのです。
得点することがなければディフェンスは出てきませんし、下がっていればパスはできませんし、仮にパスができたとしても苦しいシュートになってしまいます」
――ボールマンはまず、得点することを徹底して狙っていくということですね?
「ピック&ロールの第一段階はそこにあると思います。中途半端なピック&ロールなら、やらない方がマシかもしれません。シュートやリングへアタックする気がないのであれば、やっても意味がないのです。その部分ができてからようやく、第二段階でピックスクリーンをしっかり使ってよりオープンになることだったり、対応してきたディフェンスへの攻撃だったりに進んでいくことになります」
――NBAでもポイントガードだけでなく、得点をさせたいプレーヤーにピックスクリーンを仕掛けることが増えてきましたね。
「そうですね、私もガードにピックスクリーン…ということに固執したくありません。ポイントガードだけがピック&ロールをしていると、ディフェンス側にも対応策が簡単に出てきてしまうと思います。だからこそ、ほかのポジション(主にSGやSF)でもピック&ロールができて使えるようになれば、どこからでも攻撃することが可能になってくるはずです。
ポイントガードだけがピック&ロールをすると、ポイントガードがボールを持っている時間が長くなってしまいます。ときにはパスをし、スペースを作り、ほかのプレーヤーが行う方がオフェンスの幅も広がると思います」
――どうしてもボールハンドリングやボールキープということを考えると、ガード陣がピック&ロールすることが多くなってしまうのではないでしょうか?
「ボールハンドリングやボールキープ、判断力という面を考慮すれば、上のカテゴリーに行くほどガード陣が多くなってきます。だからこそ、アンダーカテゴリーの段階から全プレーヤーが練習していくことが望ましいと思っています」
――ピック&ロールを行う上で、ポイントガードとほかのプレーヤーの違いはどこにあると思いますか?
「PGとSGやSFの一番の違いは、スクリナーから離れてスペースが作れるか作れないかという部分です。“離れる”という少しの労力が足りないと思います。また、そこにはコートを俯瞰して見ることができなければなりません。ただ、これはコーチの究極の課題だと自分自身では感じていますが(笑)」
――前回のセミナーでも小宮氏が「俯瞰で見ることができるのが理想」と言っていましたが、なかなか難しいことだと思います。
「そのためには、ピック&ロールを2対2で繰り返して練習していく必要があると思います。形だけ覚えたら、すぐに5対5…これはありえません。余裕が生まれなければ、状況判断も難しいのです。そのために指導者は徹底してやり抜く“覚悟”を持ってピック&ロールに取り組んでほしいですね。使うのであれば、どれだけ時間を割けるのかということも重要になってきます」
――中高生の試合で、ボールマンが困ったらピックスクリーンを呼ぶというシーンを頻繁に見ますが…。
「困ったら…ではないのです。困ったらピック&ロールという発想が、プレーを急いでしまうということにつながってくるのでしょう。余裕がないプレーヤーにスクリーンを仕掛けても成功するはずがありません。それでは自分の武器としてピック&ロールを使っているという状況になっていないのです。
だから“覚悟”が必要になってきます。それを武器にするのであれば、コーチも含めて覚悟を持って取り組むべきです。まずは、ここから始まると思っています。覚悟がなければ時間の無駄なのです。それぐらいピック&ロールは奥が深いですし、価値のあるプレーだと考えています」
――一般的に、ピック&ロールを安易に取り組むことが多いように見えますが、いかがでしょうか?
「ピック&ロールはバスケットボールでカテゴリーを問わず主流になっていることは事実です。しかし、確率の高いシュートができる武器だと信じてしっかりと時間をかけて練習しなければ…。主流だからといってやっているのであれば、どのチームも同じようにやっています。そこでコーチが妥協せず、練習に落とし込んでいき、武器にしていくべきプレーなのです。“ボールマンが得点する”という根本的なものを身に付けず、小手先のピック&ロールにばかりに頼っていることが多いように感じます。ともかく、ピック&ロールはボールマンが得点を狙うため行うプレーだということを再認識してほしいと思っています」
山本達人/月刊バスケットボール