日本バスケの”フィジカル”論 篠山竜青 × 佐藤晃一

フォーカスすべきはアメリカよりもヨーロッパ

──アメリカ戦では、なかなかボールが前に進まないといった印象でした。トルコ、チェコと比べて、コンタクトやディフェンスの圧力の違いといったものはありましたか。
篠山「アメリカ戦に関して言えば、いろいろな要素があったと思います。一つの要素は、夏の強化試合から戦術的な変更がありました。速い攻撃をやめ、ハーフコートでコントロールすることで、得失点差をできるだけ抑えようという戦術です。正直言って、プレッシャーをかけてくるチームに対して、スローダウンし、しっかりとコントロールしていくことは難しかったですね。そうした展開を打開してくれたのが馬場(雄大)でした。彼がアタックしていくメンタリティーを見せてくれました。周りが付いて行けずに、単発で終わることが多かったですが、戦術も自然と変更していきました。行けるときにプッシュしないと始まらないとなったわけです。
世界一のバスケットボール大国ですから、当たり前なのですが、ワールドカップの話題になると、アメリカはどうだったと言われることが多いですね。同級生や知り合いに、中学や高校の指導者も多いのですが、まずアメリカの話題になります。ただ、個人的には、アメリカより、今回対戦したトルコ、チェコといった、ヨーロッパのチームと戦うことをフォーカスした方がいいのではと思っています。そうしたチームは体をぶつけることで、イニシアチブを取り、アメリカとやり合っていました。トルコやチェコとは、日本もまがりなりにもゲームになりました。アメリカはアジリティー、1対1の能力で飛び抜けています。スペイン、セルビア、トルコといったチームは、もう少し、我々に近いことをやっていると感じていますから、そうしたチームがしていることを勉強し、フォーカスしていくことが必要ではないでしょうか」
──チェコ戦では前半まで接戦でした。今後、それを追い付くための手掛かりといったものをつかめましたか。
篠山「言い方は雑になるのですが、もっと『ちゃんとやる』ということですね。例えばスカウティングで、相手にやられたくないこと、やらせたいことといったことが出てきます。右利きだから、右のドライブは抑えようとか、アウトサイドシュートが得意だから、ハンドオフに対してはファイトオーバーして付いていこうとかいったものです。そうした対策を 100%徹底できていたかといえば、実はエラーが多かった。そうした質を上げるだけで、試合の展開はかなり変わっていったと思います」
──フリオ・ラマスヘッドコーチが、ワールドカップで勝つためにはより完璧なゲームを遂行しなければならないと言っていたのは、そうした意味ですか。
篠山「そうですね。細かなワンプレーワンプレーをしっかりと対応し、エラーをなくしていくことです」
──質を上げるために必要なことはどういったことですか。Bリーグのシーズン中にワールドカップの予選があったり、ワールドカップやオリンピックでは試合が続きます。そうした環境において、スカウティングに対してのプレーの精度を高め、質を上げていくのは難しいことのように感じます。
篠山「日頃から一つ一つの練習の質を高めること。スカウティングに対する意識を高めることでしょう。Bリーグであれば、そうした一つのプレーのミスがあっても、個の能力でカバーできてしまうこともあるでしょうし、それが勝敗に影響しないこともあります。しかし、国際大会になれば、相手はその一つのミスを見逃してくれません。そうした積み重ねでメンタル的にも落ち込んでしまい、悪循環となっていきます」
──プレーの質を高める上で、フィジカルの影響はどうでしょうか。コンタクトがボディーブローのように効いたといった選手のコメントもありました。
佐藤「体が疲れれば、メンタルも疲れますし、考える能力、判断力も低下しますから、プレーの質も下がります。また、Bリーグであれば、どの選手がどんなプレーをするのか、すでに知っている場合がほとんどですが、国際大会となれば、いくらビデオでチェックしたとしても、限界がありますから対応能力も求められます」

必要なのはアドリブと連動性

──これまで話してきたような課題をクリアできれば、ヨーロッパ勢と対抗できそうでしょうか。
篠山「そんなに楽観的にはなれませんが(笑)。一つのセットプレーが壊されたときに足が止まってしまい、誰かの1対1を見てしまうということもありました。また、エントリーをディナイされたときにどうするかといった判断、対応がもっと必要でした。どこかが苦しくなれば、当然どこかにスペースができるはずですから、そこに飛び込んでいけば、アドバンテージを取ることができ、そうした少しのズレを大きくしていく。それこそ僕たちがやりたかったバスケットです。戦術どうこうではなく、誰かが困ったときに誰かが助ける。困った選手が声を上げ、周りが素早くアジャストしてコートの中で対応していく。体格でハンディがある僕たちには、そうしたアドリブと連動性が必要です」
──ワールドカップを経たことで、世界レベルに追い付いていくための課題が見付かったわけですね。
篠山「今にして思えば、これまでになんでやってなかったかと思えることがたくさんあります。自分自身恥ずかしいし、悔しいですけど、それを残しておかないと。そうすることで、若い選手たちが、そうした取り組みに気付き、今から始めればいずれ世界と対等に渡り合えるようになると感じられたんです。
体の使い方一つにしてもそうですが、ミニ、中学、高校とカテゴリーごとに、それぞれのチームで全国大会を目指すといった区切られた考え方ではなく、最終的に日本代表で勝つための育成が始まっていくといいのかなと思っています」
佐藤「我々の立場では、代表選手に対して直近の強化でできること、やるべきこととそうではないことを見分けて取り組みます。A代表でやっても間に合わないことは、その前の世代、アンダーカテゴリーで取り組まなければ身になりません。さらに育成年代で取り組む必要があることもあります。それは判断能力を培うことです。ちゃんと自分で考えてプレーしているか。スカウティングを理解できるか。それが、実際にプレーとしてできるか。相手がアジャストしたときに対応できるかといったことです。それをコーチに言われてやるのか、自分たちで判断し、対応できるか、そうした能力に差が出てきます。
日本の選手は指示待ちのメンタリティーが強い傾向があります。それがチームプレーとして良く出るケースもありますが、時には、自分で判断し、コーチの指示とは違うプレーをやれる勇気も必要でしょう。また、それを良しとする指導者が増えると変わってくるかもしれません。自分で考え、判断し、対応できる選手が増えることが、世界のレベルに近付くことにつながるのではないでしょうか。先ほど篠山選手が話していた、自分で自分がやったプレーを説明できるということにもつながってきますね。
また、ユーロリーグには20人近くの10代の選手がロスター入りしていると代表のサポートコーチでユース育成も担当している鈴木良和さんが話していました。日本で高校日本一とか大学日本一と言っている間に、世界の同世代の選手たちは上のカテゴリーの選手たちと日常から切磋琢磨しているのです」
──そうした環境で、体の使い方のうまさなども継承されているのでしょうね。
佐藤「篠山選手が小さいときに柔道やレスリングなどをやっておけば良かったと話していましたが、アメリカにはシーズン制があり、季節ごとに別のスポーツに取り組むことができるのですが、最近は早期特化が進んで小さい頃から1つのスポーツに特化している子どもが増えているようです。その影響でケガが増え、バーンアウトしてしまう選手が増えているといった報告もあります。日本はもともと早期特化ですが、子どもの頃にいろいろなスポーツをやる機会があれば、もっと伸びる可能性があります。バスケットボールは「早く始めて、遅く特化するスポーツ」と言われています。ボールの感覚などを養うために早く始めた方が良いのですが、バスケに絞るのは14、15歳で良いと言われています。ヨーロッパの育成システムで行われているように、バスケットチームであっても、小学校低学年では、鬼ごっこや、ボール遊び、器械体操など、いろいろと体験しておいた方が、後々の成長につながります」

自分で考え、判断、対応できる選手へ
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