井手口孝監督(福岡第一高)が語る“こだわり”の指導論
『コート全体を使った“28m”でバスケットボールを考えたい』
―以前と比べて、ミニバスや中学、U15の指導者が『速いパス、強いドリブル』を意識して練習しているように感じますか?
「なぜ、速いパスや強いドリブルが必要なのかを理解していないと思います。それでも、身体の近くで行ったり1対1やピックなどで使ったりするドリブルは非常に上手なのですが、5人を抜いてくるようなドリブルやスピード、5人の中での速い、強いパスなどを意識したものではないような気がしますね。私はバスケットボールを“28m(コートの縦の長さ)”で考えているので、28mのパスやドリブルというものを意識して練習しています」
―これまでの福岡第一高の歴代ガードで、パスに関して特徴的だった選手を教えてください。
「鵤 誠司(2011年卒業/宇都宮ブレックス)は類まれなチェストパッサーでした。並里 成(07年卒業/琉球ゴールデンキングス)はそれをワンハンドでやっていたので、よりプレーの幅がありましたね。Bリーグではトランジションの場面がどうしても少なくなるので、そのようなパスのシーンはあまり見かけませんが」
―“28m”を具体的にどのようなスキルに落とし込んでいくのでしょうか?
「センターラインを境にした4m(前後各2m)をいかに速く駆け抜け、そして戻るのかを常に言っています。その場所に時間をかけないようにしたいのです。そして、福岡第一に来た選手には『エンドラインからエンドラインまでチェストパスで飛ばせるようになりなさい』『エンドラインからエンドラインまでドリブル3回ぐらいで行けるようになりなさい』とも言っています。当然、このようなことを練習メニューにも入れています」
―だからこそ、トランジションの速さにもこだわるのですね?
「特に、シュートを決められた後はレフェリーがワンタッチしないので、とにかく速くトランジションをしたいのですね。ホイッスルが鳴ってレフェリーがボールを渡す状況でさえ、レフェリーより速くその場所に行ってボールを催促するような感じです(笑)。トランジションというものは、ディフェンスから速攻だけではありません。得点された後のスローインからでもできるのです」
―大会を勝ち上がっていくと、相手の隙も徐々に少なくなってきますが、その部分はどのように捉えていますか?
「それでも絶対に隙はありますよ。その1点で勝敗が決まるのです。ずっと試合が拮抗していて、ふとした瞬間だと思います。走られたり、破られたり、リバウンドを取られたり…もちろん、自分たちにもあるのですが…」
『コート内に5人のセンターがいるよりも、5人のポイントガードの方が強い』
―試合中、シュートを決めた後、井手口監督は「ハリーバック!」と常に言っていますね?
「時間が止まっているときは別ですが、流れている状況では『ナイスシュート!』ではなく、『戻れ!』なのです。練習でも、ディフェンスのドリルをしたらブレイクに行って、ハリーバックするというところで1セットとなっています。プレーが片道で終わらないように、試合と同じイメージで日頃から練習しています。例えばハーフコートしか使えないときでも、ディフェンス練習をして終わりではなく、ディフェンスからブレイクを意識してセンターライン辺りまで走るというところまでの流れは大切ですね」
―福岡第一高には、これまでの話にも出てきましたが、並里選手や鵤選手、そして昨年の河村勇輝選手(東海大)など、素晴らしいポイントガードがたくさんいます。ガード育成のポイントは、どこにあると思いますか?
「“選手全員をポイントガードにしよう”と、練習していることかもしれません。コート内に5人のセンターがいるよりも、5人のポイントガードの方が強いのです。その中で、身長の差があって大きい選手から小さい選手までバランス良くいれば、一番強いと思っています。ですから、ミニバスでは全員にポイントガードさせてほしいですね。スキルだけでなく、全て理解してリードしていくというバスケットボールという競技の中におけるガードの立ち位置も含めてです。全員ができるということはないと思いますが。その資質が全員にあれば、これほど楽なことはありませんね(笑)」
―確かに、コート上の5人がポイントガードであれば、間違いなく強いですね。
「“今、何をやれば得点できる”ということを5人が考えられて、それが一致しいている…もちろん、誰かがリードしていくのですが、リードする間もなく全員が理解していれば、速くて正確になるはずです。そうなれば、サインを出さずに24秒を無駄なく使うことができるかもしれません。それこそ、“あうんの呼吸”です」
―井手口監督はスターター5人を1年間通してあまり変えません。これも“あうんの呼吸”と関係があるのでしょうか?
「1年間、スターター5人を固定するのは、“5人のハーモニー”を作りたいという思いからです。そこではポイントガードを頂点としたチームが出来上がるのです。今はポイントガードの選手もいれば、センターの選手もいます。以前は小さい選手が多かったので、5人ともポイントガードでした(笑)。今でこそ、ポジションや役割を当てはめていきますが、その根底は全員がポイントガードであってほしいと思っています」
―並里選手は入学当時から、ほかの選手たちとひと味違っていましたか?
「彼はずっとポイントガードでしたし、意識がプロ並みでした。良い練習をしないと絶対にダメでした。昨日と同じ練習なんていうのもダメでしたね。与えれば与えるほど、食らい付いてくる選手でした」
―ほかにも重冨兄弟(専修大)、河村選手…本当にすばらしいポイントガードばかりです。
「並里や重冨兄弟、河村はミニバスや中学校時代の先生たちの力です。私は彼らにプレーする場所を与えただけだと思っています。共通して言えるのは、チーム内にチームメイトやライバルが存在していたことです。もちろん、4人とも1年からベンチには入っていましたので、ベンチで試合を“見る目”も養われた部分はあると思います」
―先ほど話に出た『本当のシュート、本当のドリブル、本当のパス』を彼らは入学当時からすでに持っていましたか?
「重冨兄弟のシュートは高校3年からでした。並里は入学してシュートを禁止してパスだけさせた期間がありました(笑)。普通の高校生相手であれば、30~40得点できてしまったので。パスの面白さを感じてほしかったという思いはありましたね」
―ポイントガードにも得点力が必要だと思いますか?
「河村やジュニア(3年/ローレンス・ハーパー・ジュニア)には、『まずは自分』、次は『周りにプレーさせる』、そして最後に『もう一度、引き取れ』と、24秒間の使い方をそのように教えています。私の思う“ダメなガード”は、最初から最後までずっとボールを持っていることです。ほかの4人がボールを一度だけ触った程度でシュートは入らないと思います。ゆっくりボールを運んできて、サインを出して、ファーストタッチでシュート…シュートの確率が良い訳がありません。ポイントガードがリードしようと思えば思うほど、ボールを持つ時間が長くなってしまう傾向にあります。ほかの選手たちもリングにアタックしたい、シュートしたいと、ボールを欲しがっているのです」
―ショットクロック(24秒間)の時間配分をどのようにイメージしていますか?
「24秒間の時間配分は選手に教えていく必要があると思っています。イメージとしては、ファストブレイクやアーリーオフェンスを狙って、次にセットオフェンス、そして残り10秒ぐらいからピック&ロール(ポイントガードとセンター)という感じです。そうすれば、オフェンスの終わり方も良いような気がしています」
山本達人 / 月刊バスケットボール
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