佐古賢一、萩原美樹子が語る~ 育成年代の指導の「難しさ」と「ヒント」(アンダーカテゴリー日本代表ヘッドコーチ)

選手同士のミーティングで目標設定と、自分で考える力を

選手との距離感について萩原氏は「選手とコーチの関係はトップダウンではなく、役割が違うだけで、同じ方向を向くという関係性だとは思っています。しかし育成世代では、大人と子どもの関係性はちゃんと持っていないといけないとも感じています。子どもたちは経験のなさから間違えることもあり、練習中危ないことが起こったりすることもあります。集まっている目的があり、みんなが安全な環境の中で、真剣に上達を求める場であるという雰囲気を醸成する責任は指導者にあると思います。危ないことをしたら叱れるという距離感、お友達じゃないよというところは残しつつ、一方でのびのびと、プレーヤーが自分の考えていることを指導者に伝えられる関係性を築けないかと試行錯誤しています」と話す。
男子も女子も強化合宿などではプレーヤー同士のミーティングを行っている。練習の前後に、少人数のグループでその日の課題を話し、それが取り組めたかどうかを伝え合う。ときにはそれを皆の前で発表することもある。それは、日々、しっかりと目標を設定し、それに取り組んでいくプロセスであると同時に、自分で考えてプレーできる選手を育てようとしているからでもある。佐古氏は「話し合いにはできるだけ口を挟まないように、選手だけでやってもらっています。その結果を報告してもらうようにしています。指導者がそこにいると、こんなこと言っちゃいけないんじゃないかとか考えるプレーヤーも出てくるでしょうから。その報告を記録して、次の日の練習の前に確認するようにしています」と、プレーヤーの自主性を尊重できるように距離感を意識している。また、「言われたことをやろうという意識が強くて、自分から率先して何かに取り組みたいという環境が乏しかったんです。ミーティングで話すことで、言ったことに対して責任が出てくるでしょう。最初は『言ったもん勝ち』になってしまい、言った人がリーダーみたいになってしまいがちなのですが、そのうち『言ったのにできてない』って言い合えるようになってきます。コミュニケーションの取り方、能力が上がってきて、チームとしてのケミストリーにもつながります。選手同士のミーティングは効果的な手段になっています」と話す。
萩原氏も「自分で今、何をすべきかということを考え、自分で課題を抽出して、それに対してどうしなければならないのか、どう振る舞うことがベストなのかということを自分でしっかり考えられる選手になってほしい」とその目的を語る一方で、さらに「『みんなで』というところをちょっと超えてほしいと思っています。女子は突出することを嫌がる風潮があるんですね。何かをやって失敗すると恥ずかしいというようなことが強いと感じています。年代的なこともあるんですが、それって全然恥ずかしくないし、チャレンジしない方が恥ずかしいんだよねという場の空気を作ることも心掛けています。チャレンジしないとうまくならないじゃないですか。人から秀でよう、突出しようとしなければ、スポーツはうまくならないわけですから、周りの目を気にしないで、自分でものを考え、自分でそれをチャレンジできるといった場になるように取り組んでいます」と期待も口にする。

コーチもプレーヤーも、失敗から何を学び、成功へと導くか

萩原氏には2019年U19女子ワールドカップに出場した際の苦い体験があった。2017年の同大会で、ベスト4入りを果たしており、19年大会での目標はメダルの獲得だった。しかし、ターゲットとしていたベスト4を懸けたベルギー戦で63-43で敗れてしまった。目標としていたメダル獲得の夢はついえたが、順位決定戦が残っている。一位でも上の順位を狙いたかったが、その後、1勝もできずに8位に終わった。
「本当に選手たちはメダルを取りたかったんだと思うんです。本当に一生懸命頑張ってくれていました。負けた後は、私たちが予想していたより落ち込んでいました。でも、実はゲームプランで、相手のこのことを抑えるためにこういったことをやっていこうとコーチたちが話し合ったことが、そんなに遂行できていなかった試合だったんです。それがすごく気に掛かって、『まだ2ゲームあるけれど、基本的にはゲームプランを遂行してほしい』といった声掛けをしてしまったんです。『こういうことがやりたかった』『相手のここを止めるために、こういうことをやっていこうと』と言っていたことが、できてなかったよという言い方をしてしまった。ネガティブな声掛けをしてしまったことで、チームの雰囲気が沈んでしまい、結局、立て直しが利かなかったというところは、私の責任が大きかったと。19歳で、大人に近いカテゴリーとはいえ、そこは彼女たちの気持ちを次に持っていくことを、あの手、この手でやっておくべきだったなと、後悔していました」と萩原氏。
その話を聞いた佐古氏は「僕らも人間ですし、全て正解を知っているわけではありません。決して失敗ということではないと思いますが、僕らも学ばなければならないと思います」と述べた後、自身の体験を紹介した。
「私はカップ戦しか指揮を執っていませんが、U16のプレーヤーたちを連れて参加したクリスタルボヘミアカップ(2019年)では、とてもいい経験をしました。その初戦でひどいゲームになってしまい、大差を付けられて負けてしまったのです。
試合後のミーティングで試合の映像を見せ、「みんなが戦った相手は、君たちがどんなに頑張ってもかなわない相手ですか」と問い掛けました。自分たちがここから、もう一度頑張り直そう、モチベーションを作り直そうと思ったときに何ができますかと聞くと、『コーチに言われたことをしっかりと…』みたいなことを言うのです。それは違うと。私は『この場面、何ができる? 何を頑張れる? 明確に頑張ることが分かれば、頑張れる。何を頑張っていいのか分からない状況では何も力が出ないから、みんなでできることを確認しよう』そんなことを言って、映像を見ながらできることを書き出したんです。それで『このチームともう一回やるには、決勝までいかないと対戦できない。明日のゲームでは相手は違うけど、自分たちができること、やれることを全員で、全力でやろう』とモチベーションを与えたことで、雰囲気が変わりました。やれると思ったことに、100%振り子を振らせることを意識し、選手たちも自信を付けたことで勝ち上がり、最終戦では、逆に大差を付けて勝てました。これこそ成功体験だと思い、すごく褒めましたね」と当時を振り返る。失敗からも自らの気持ちを切り替えてつかんだ成功体験は、プレーヤーにとっても自信につながったに違いないと佐古氏は話す。
萩原氏、佐古氏とも自分の経験をつまびらかにし、多くの指導者と情報を共有しようとしている。また、プレーヤーにチャレンジを求めるだけでなく、自らも学び、新しい指導法を求め続ける姿勢を感じさせた。萩原氏は最後に「全国の指導者の皆さんが育てていただいたプレーヤーたちを預かっているという責任感を持ってやっていきたいと思いますし、皆さんが育てた代表チームだと思っています。育成世代だけでなく、代表が強くなっていくためにも、皆さんの力が必要です。みんなで日本のバスケットを良くしていきましょう」と呼び掛けた。

※月刊バスケットボール2021年4月号(2月25日発売)では、このコーチカンファレンスを企画・実施した鈴木淳氏、モデレーターを務めた佐藤晃一氏の特別対談を掲載しています。

(飯田康二/月刊バスケットボール)
 

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