元男子日本代表ヘッドコーチ 長谷川健志氏が語る「ファストブレイク」へのこだわり

みんなが口をそろえて言う「ディフェンスから速攻」…本当にできていますか?

ミニバスから中学、高校、大学と多くのチームで目標やチームカラーに掲げる『ディフェンスから速攻(ファストブレイク)』。本当のファストブレイクとは何なのか…メリット&デメリットなどを整理して考えてから練習に取り組む必要がある。そこで、青山学院大を大学界屈指の強豪に育て上げ、その後は男子日本代表ヘッドコーチを務めた長谷川健志氏(青山学院大アドバイザー)に、ファストブレイクの仕組みや考え方、そして“こだわり”の練習方法を聞いてみた。

―ファストブレイクに関して、長谷川さんはどのように考えていますか?
「ファストブレイクをする目的や考え方などを指導する側がはっきりと分かっている必要があります。ミニバスから中学、高校、大学まで『自分のチームの特徴は?』という問いに対して、『粘り強いディフェンスからファストブレイク』という答えが多いです。これはどのチームもやっていることですし、『本当に?』と、思わず聞いてしまいたくなります(笑)。 実際、ファストブレイクの目的や考え方、メリットやデメリットを理解した上でトライしていく必要があると思っています」
―多くのチームがそうではないと…。
「ファストブレイクをするために、どのような練習をして、必要な個人のスキルを習得して…加えて、チームとしてどう練習し、それをライブにしていくのか。さらに、40分間の試合の中で本当に多くのファストブレイクを出したいのであれば、相当なコンディショニングと体力アップを図らないとならないのです。そのような項目や順番を作り、それを選手とともに1つずつクリアしていくことで、初めてファストブレイクというものは出来上がると思っています。ファストブレイクを出すということは、結構大変な作業なのです」
―多くの指導者は、ボールを奪ってからとにかく単純なスピードを速くすることを一番に考えていると思いますが。
「もちろん、速い方が良いです。その分、攻撃回数が増えますし、増えればミスも増える可能性が高い…そうなると、相手に攻撃権が行ってしまうのです。バスケットボールは確率のゲームです。むやみやたらにファストブレイクを出すことができるわけではありません。当然、ファストブレイクが出やすい条件や状況があり、その中にドリルとして個人のスキルを高める必要があり、そしてチームとしての考え方が加わってくるのです」
―長谷川さんは、ファストブレイクをどのように整理して考えていますか?
「私はファストブレイクを、コートを横に分割した“エリア”と、縦に分割した“レーン”に分けて考えています。リバウンドからアウトレットパスを出す所を“アウトレットエリア”、次にフロントコートの3Pライン近くまでを“ボールキャリーエリア”、そして最後の“スコアリングエリア”の3つです。ここで必要なことは体力的なこと別にして、パスが上手でないと成り立ちません。スピードがある中でドリブルは最低3回できれば良いと思っています。 そして私は、相手をドリブルで抜いていくファストブレイクは考えません。なぜなら、自分たちより上手なチームには対抗できなくなり、またドリブルを使うとドリブルが上手な選手しかボールキャリーができなくなるからです。 そして、コート中央の“ミドルレーン”と、その左右にある“ウイングレーン”をどのようにしてボールキャリーし、28mのコートをうまく活用できるかということが重要になってきます」

〈関連リンク〉長谷川健志氏が「ファストブレイク」を解説 (セミナー動画/プレミアム・記事会員限定)

5人の選手がある程度、同じように動けるようにしていく必要あり

―ファストブレイクでは、ボールキャリーをする選手と走る選手を決めないということですか?
「選手Aは右、選手Bは左、選手Cはミドルマンと決めてしまうと、その前のディフェンスでどこにいるかは分かりません。それによって全然変わってきますからね。そのため、ある程度5人が同じように動けるようにしていく必要があります。それには分解ドリルなど、相当の練習と時間を要すると思います」
―そのために、特に必要なスキルはありますか?
「パスとドリブルは絶対です。特に、距離の長いパスは必要です。あとはフィニッシュ。1対0は作らなければならないのですが、必ずノーマークのレイアップになるわけではないので、1対1でペイント内のシュートができるフィニッシュドリルもやりたいです。 次に、アウトナンバーの練習です。それと同時進行でアウトレットパスの出し方やボールキャリーの仕方なども分解していき、最終的にライブしていくイメージです」
―ファストブレイクをライブにしていくための注意点は、どのようなことでしょうか?
「例えば、パスを強調したいのであればドリブルを“ゼロ”や“1”など、練習を極端に行う制限付きのドリルを行う必要があります。また、“10秒”“8秒”など、時間の制限など、いろいろな練習を組み立てていきます。 ファストブレイクはハーフコートオフェンスとは異なるので、これらを選手たちが直感的に習慣性で身に付けないとなりません。経験上、これをある程度作っていくことで、それがチームの伝統になっていくと考えています」
―ファストブレイクもしっかりと分解して、組み立てて練習していく必要があるということですね。
「しっかりと分解して組み立てて練習していくと、多少身長が低かったり、身体能力が劣ったりしていても、選手の能力に左右されることなくファストブレイクというものができるようになってくるはずです。そうなると、1年生が入ってきても上級生が先にできていれば、それを見ながら頭と体で理解し、覚えていけば良いのです。そうすれば、毎年少しずつバージョンアップされていくのだと思います。 さらに、ファストブレイクを出そうとすると選手たちは積極的になります。当然、コンディショニングにも気を遣うようになるため、それはディフェンスにもかかわってくることになるのです」

サイズの劣っているチームこそ、ディフェンスがマッチアップしていない状態でチャンスを生み出す
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