元男子日本代表ヘッドコーチ 長谷川健志氏が語る「ファストブレイク」へのこだわり

サイズの劣っているチームこそ、ディフェンスがマッチアップしていない状態でチャンスを生み出す

―(ファストブレイク時に)あまり役割を決めず、5人の選手が同じように動けるようになることは、なかなか難しいことですか?
「5人全員に得点やリバウンドのチャンスが出てくるところに、バスケットボールの楽しさがあると思っています。役割をあまり制限せず、自由な中、自分たちでゲームが理想です。練習は指導者が組み立てますが、ゲームは選手が任されている状態。そこで、自分たちのやりたいことを表現できたということになれば、相当の自信と楽しさになるはずです。 バスケットボールだけでなく、スポーツ良さというものは、そういう部分にあると思っています。それをファストブレイクに求めたいです」
―長谷川さんがファストブレイクにこだわる理由は、どのような部分でしょうか?
「ハーフコートオフェンスになるとリングまでの距離も短いですし、なかなかディフェンスとのズレを作るのも難しいです。スペースの作り方やエントリーの方法、選手個人の役割…どうしても制限が多くなります。それよりも、自由な発想で考えられるファストブレイクの方が制限も少ない中で、楽しさを生むことができると思っているからです。 ファストブレイクを練習していくことで、選手に“予測力”が付くのです。バスケットボールは最終的にオフェンスもディフェンスも、一手先を読めるかどうかを争うことだと思うのです」
―ファストブレイクはスピードのある中で、さまざまなことが要求されますよね?
「バスケットボールはスピードの中で状況判断などを要求していく必要があります。ただバスケットボールだけを10年、15年とプレーしても予測力は付かないと思っています。予測力を付けるためにも、ファストブレイクというものは良い練習になりますし、若いカテゴリーのうちにトライしていってほしいものです」
―ファストブレイクを整理していくことで、対戦相手よりも多少サイズや能力が劣っていても、十分に対抗していくチャンスがありますか?
「例えば、留学生を擁するチームと対戦する場合、5対5で対抗することはなかなか難しいと思います。ただし、オフェンス回数を増やしていくことで、ファストブレイクによる得点チャンスで得点を伸ばしていける可能性が出てきます。あとは、ディフェンスの組み立てや工夫で何とかなる部分があるはずです。 サイズの劣っているチームはハーフコートのオフェンスでリバウンドを取ることは難しいですよね。でも、ファストブレイクではディフェンスがマッチアップしていない状態なので、絶対的にチャンスは生まれるくるのです。また、ディフェンスのファウルも誘発することもできます。 そのためにも、指導者がファストブレイクについて考えて、整理していく必要があるのです」

 

“判断”と“選択”を自分ですることが重要になってくるファストブレイク

―指導者がプレーを整理して、考えてから練習をするということですね?
「どんな練習においても同じです。例えば、ゲームでの“このポイントのための練習”だということを選手に理解させて練習を行うのと、そうでないのとでは選手のイメージも全く違います。パス練習にしてもそうです。『ゲームのこの場面で使う』から、今特化して練習しているんだ、と。それが分かるように教えていかなければなりません。そうすることによって、選手の成長が少し早くなると思っています」
―ミニバス、中学(U15含む)、高校と、サイズが大きかったり、速かったり、身体が強かったりという部分で相手と勝負しがちだと思うのですが。
「サイズでもスピードでもパワーでも、常に自分が一番ではないのです。バスケットボールはチームスポーツなので、そういうことよりも小さい頃から“判断する”ということを意識してプレーしてほしいですね。これはバスケットボールだけでなく、教育の分野にもかかわってくることですが」
―“判断”と“選択”を自分ですることが重要になってくるということですか?
「指導者は選択肢を与えたり、方法は教えたりしますが、その中の“判断”は自分でするもの。それが楽しさであり、面白さだと思うのです。そして、選手は成功しないと自信も生まれてきません。自分で判断して成功することが自信につながるのです。 選手は自信が生まれないと、本当に楽しいとは感じないと思います。日々の練習の中で成長するために、バスケットボールを通じて考えさせるということが大切なのです。…というようなことをファストブレイクで一番考えることができると思っています(笑)」
―ファストブレイクというと、速く走ってレイアップを決めるというようなイメージを持ちがちですが、実は細かいルールや判断などが数多く入っているのですね。
「フィニッシュ部分のシュートに関する練習は比較的やっていると思います。ただ、その手間にある“アウトレットエリア”や“ボールキャリーエリア”、“スコアリングエリア”(実際はコートを縦にも3分割し、“ミドルレーン”と“ウイングレーン”にしている)を整理して、みなさんが頻繁に使う『ディフェンスから速攻』をもう一度見直してほしいですね。 強いチームはリバウンドを取ったとき、すでにフィニッシュまでの過程や形がイメージできているはずです」

山本達人 / 月刊バスケットボール

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