バスケットボールの潮流に見るコンタクトプレーの重要性~倉石平氏が解説
なぜ、現代のバスケットボールでは、コンタクトプレーが必要になったのか?
日本代表からトップチーム、大学男女、クリニックなどではアンダーカテゴリーを指導し、幅の広いコーチングと最先端のスキルや理論を知る倉石氏。ミニバスや中学、U15、そして高校などの指導者には男女の性差なく聞いてほしい内容だ。「コンタクプレーの重要性」「汎用性の高いオーバーハンドシュート」など、現代のバスケットボールに必要なスキルや歴史的背景、練習方法を聞いてみた。
――なぜ、現代のバスケットボールでは、コンタクトプレーが必要になったのでしょうか?
「アメリカのバスケットボール事情が大きく左右しています。これまでNBAなどではインサイドゲームが蔓延していましたが、そこから離れなければならない事情が出てきたのです。アメリカにはビッグマンが不在で、小さなプレーヤーたちで勝負できるように速い展開のスタイルに変わってきました」
――以前は“ゴール下を制する者は試合を制する”という考えでした。
「従来どおり、ビッグマンに対してパワー勝負になってしまえば非力であることは目に見えています。そのため、逆にビッグマンが不利に働くようなことを考えなければならなくなったのです」
――そこでどのようなことが起きたのですか?
「“大きなスペースを取らなければならない”“5人全員がリングに正対していなければならない”“シュート力がなければならない”ということになってきました。このような状況になったのが約10年前で、そこからプレーが精査されていったのです。2005年ぐらいからプレーで表現され始め、2010年ぐらいからルール化されていきました。そして2013年頃には“スモールボール”という言葉が使われ、ゴールデンステイト・ウォリアーズがクローズアップされ、ウォリアーズの黄金時代となったのです(2015、2017、2018年にNBAチャンピオン)」
――あらかじめ、ポストにプレーヤーを立たせないオフェンスが流行しましたね。
「ホーンセットやディレイなど、はっきりポストを使わず、ステイポストという形がないバスケットボールスタイルに変化していきました」
――そうとはいえ、アウトサイドシュートばかりを放つというスタイルではありませんでしたが…。
「大きなスペースを取ったり、パッシングだったり、速さを求めたりすると、3Pライン上しかボールが回らなくなってしまいます。ペイントエリアを大きく空けるということがポイントなので、プレーを速くしてディフェンスの隊形を作りにくくし、オフェンスのプレーヤーが一線を突破すればヘルプディフェンスがいない状況を作りたいです。次に、ディフェンスはヘルプの距離が長くなるため、ドライブからキックアウトされるとディフェンスは追随していくことが難しくなるのです。また、プレーヤーが動くよりもパスの方が速いので、これらの条件が合致するのが、現在のバスケットボールスタイルというわけです」
“スモールボール”は、ビッグマン不在の日本や中高生などでも有効なプレー
――ビッグマン不在の“スモールボール”は、5人全員がリングに正対するという点から考えると、中高生などで取り入れていくことが望ましいと思いますか?
「望ましいですね。ちなみに、アメリカの場合は最初にゴール下シュートを教えます。次に、サイズに関係なくリングに背を向けてパスを入れてシュートを考えさせるのです。そうすると、プレーヤーは勝手にターンアラウンドやシュートフェイク、ドリブルなど使ってディフェンスとコンタクトしながらシュートすることを覚えます。そこから徐々に外側へと広がっていくという形で練習していきます。
中高生は、そのようなことが必要なのは、その後に第二次成長期が来たり、筋力が付いたりという体の変化が出てきたとき、ポジションアップやダウンということが起こるからです。リングに正対して自分でクリエイトする(相手を出し抜く)能力を身に付け、インサイド、アウトサイド両方の1対1における仕掛けが必要不可欠になってくるのです」
――“スモールボール”で基礎となるプレーは何でしょうか?
「基礎要素として重要なのは、1対1でディフェンスを突破することです。突破する能力を作るクリエイトさが不可欠になります。さらにアウトサイドの完全なオープンシュートを決めなければなりません。スポットアップシュートを確率良く決める必要があるのです。加えて、慌ててクローズアウトしてきたディフェンスを突破する能力も重要になってきます。
ここで再びキックアウトしても能がないので、ディフェンスの手前で仕掛けるフローターやディフェンスとコンタクトしてもシュートを決めることができるコンタクトフィニッシャーというプレーを練習することになっていくのです。この2つはドライブで必要になるスキルになります。キックアウト系、フローター、コンタクトフィニッシャー系の3つのスキル全てをひとくくりにして持っていなければならないのです」
――フローターはだいぶ前からスキルとして取り入れられていますよね?
「フローターの良い部分はシュートだけではないことです。フローターの状態からシュート、キックアウト(長いパス)、ディッシュ(短いパス)とプレーを変化させることができます。ディフェンスはパスかシュートか分からず、オフェンスに翻弄されることになるのです」
――フローターなど、片手のオーバーハンドシュートが必要になってくるのは、シュート確率が高くなるからでしょうか?
「確率というよりは、プレーの幅が広がるからと考えた方が良いです。プレーの多彩化となります。ボールマンがパスやシュートだけでなく、シュートの種類を選択できるメリットもあります。これがアンダーハンドの場合、かなり限られたプレーになってしまうことは否めません。
アンダーハンドでキックアウトパスを左右、どちらの手でも出せるようになるのは無理だと思いませんか(笑)。オーバーハンドであれば左右関係なくパスできますよね」
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