バスケットボールの潮流に見るコンタクトプレーの重要性~倉石平氏が解説

子どもたちの指導は、型よりもセンスを磨くことなどを重要視

――バスケットボールを始める時点で、指導者が汎用性の“低い”アンダーハンドのレイアップから導入することにも起因していますか?
「グローバルスタンダードに考えると、日本はそのような情報に疎い部分があります。子どもには感覚で教えていきながらも、指導者が“型”にはめがち。目的ではなく、型を遂行することが重視されているのが現状です。これは武士道などからきているものだと考えられますが、バスケットボールなどのチームスポーツでボールゲームでは“型”は重要視されません。
 もちろん、フォームというものはあるので、全く存在しないわけではありませんが…子どもたちには、型よりもセンスを磨くことなどを重要視してほしいものです」

――最近でこそ、ディシジョンメイク(状況判断)と良く言われるようになりました。
「状況判断の良し悪しは、体に染み付いた感性が重要になってくるので、その部分は磨いておかないとダメなのです。“型”が重視され、“型”ができれば良いのか…バスケットボールはそういう競技ではないということです」

――汎用性の高いオーバーハンドシュートに話を戻します。倉石さんは、オーバーハンドのレイアップシュートから始めていくことを勧めていますね。
「ミニバス(U12など)では最初にオーバーハンドしか教えません。これは世界中です。また、日本人女性は非力だから両手でシュートするということもナンセンスです。シュートはボールを投げているのではなく、背筋や脚筋力などが総合的にボールへと伝わってシュートを放っています。また、プレーの汎用性ということも加味すれば、両手よりも片手の方が圧倒的に高く、優位に働くのです」

――ボールを片手で扱えることが重要ということでしょうか?
「日本のラグビーでも最近は片手でパス(オフロードパス)を投げるようになりました。今までは両手でパスしなければミスが多くなると言われていましたが、コンタクトした状態でオフバランスでも手さえ自由であればコントロールできますし、そのようなパスを始めたことでプレーの幅が圧倒的に広がったという経緯があります。多少のリスクをともなわなければ新しいことは生まれないからです。 つまり、『最初はアンダーハンドのレイアップシュートでなければならない』という概念を打ち破らなければなりませんし、選手の将来を考えればなおさらということです。“型”にはめて押し付けて指導しているということは、選手の将来を潰しかねません。それから、オーバーハンドができればアンダーハンドは簡単にできるようになります」

――ちなみに、オーバーハンドの汎用性の高さを挙げてください。
「フローターやジャンプシュート(当然、ワンハンド)、プッシュパス、フックシュート系…全部がさまざまなスキルにつながってきます。だからこそ、オーバーハンドなのです」

リングは空中に1つしかないので、ディフェンスとのコンタクトは避けて通れない

――再び、「コンタクトの重要性」に話を戻したいと思います。コンタクトとファウルかどうかはなかなか難しい部分ではないでしょうか?
「バスケットボールはプレーヤー10人が入り組むスポーツですが、コンタクトはルール上で禁止されています。しかし、自分から好んでコンタクトをしていかないと勝利には近付けません。
 ペイント内をどれだけ占有できるかというオフェンスとディフェンスの攻防があります。オフェンスを有利にするためにプレーヤーを外側に広げていて、ペイント内に飛び込んだときに優位に働かなければ意味がありません。内側にポジションを取っているディフェンスには制限がないため、ゾーンのようにディフェンスさせると突破できなくなります。狭いスペースをこじ開けるような状況も出てきますが、小柄なプレーヤーがそれをこじ開けるにはスピードとスペースを作ることが重要なのです。
 リングは空中に1つしかないので、ディフェンスとのコンタクトは避けて通れません。それをリーガルにするためにノーチャージセミサークルが誕生したのです。この場所は無法地帯とも言えますが、聖地とも言えるのです。だからこそ、コンタクトが必要になってくるわけです」

――オフェンス側はノーチャージセミサークルを利用しない手はありませんね。
「オフェンスはそれを優位に使わないとなりません。どちらかといえば、体のぶつかり合いを好む必要が出てくるのです。ただし、コンタクトするときには“面”と“点”があり、面でコンタクトすると、体が大きかったり力が強かったりするプレーヤーが必ず勝つのです。そのため、当たり方を考えていかなければならなくなります。これが上手くシュートを放てるということにもつながっていくと思います。単純な力業では難しく、体で感じた上で、相手に力を発揮させないように方向を変えたりしていくことになります」

――やはり、オフェンスは最短距離でリングへアタックしていくことが理想ですか?
「最短距離でアタックしていくべきです。逆に、最短距離ではない場合、意図的にディフェンスを誘導することはあります。それが実際にゲームで使うユーロステップやジャンプステップということになるのです」

――そうなると、『練習のための練習』にならないことが重要になってきますね。
「例を挙げると、3メンやスクエアパスをなぜやるのか…指導者は自問自答した方が良いと思います。『試合では往復でボールを持つことはないのに…』などということです。どのスキルに使うための練習なのか、どの場面で使うことができる練習なのかを指導者は理解した上で練習していかなければなりません」

山本達人/月刊バスケットボール

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